【化学 + AI】多点観測に適した物質情報変換用化学センサの研究開発

統合的なモニタリング

我々の社会は、色々なモニタリング(観測)によって成立しています。例えば、自然環境モニタリングでは、大気中の汚染物質濃度を測定して、光化学スモッグ注意報を発令するかの判断に利用しています。また、化学工場や食品製造、植物工場等では、作業環境の保持や品質維持、生育管理等を目的として様々なセンサが配置され、それらセンサが捉えた物質情報(即ち、濃度情報)を電気信号に変換して、数値として表示することで情報の収集をしています。他の分野でも、活動・運営の安全や効率化を目指して、様々な物質情報を数値に変換するためのセンサが配置されています。このように、個々の分野はニッチな産業ではありますが、多種多様な化学センサを研究開発することで、統合的にモニタリングできるようになります。
私たちの研究室では、自然環境モニタリングや食品製造、化学工場、医学計測向けの化学センサの開発を進めています。

新たな抗酸化物質として注目されている「水素」

最近の化学センサに関する研究について紹介すると、「酸化ストレス」という言葉が一般的となり、老化や疾患との関係が研究される中で、「酸化ストレス」の主因分子の一つである体内の活性酸素(例えばヒドロキシルラジカル:・OH)をいかにして減らすかという研究が医学分野で盛んになっています。従来から抗酸化作用を有する物質としてビタミンC(L-アスコルビン酸)等が知られていますが、最近新たな抗酸化物質として「水素」が注目されています。「水素」が活性酸素を中和する性質を有することが2007年に学術論文として、日本の医学者から初めて発表(Nature Medicine, 13, 688-694)されて以来、水に水素を溶かした「水素水」が開発され、市場に出て来ました。しかし、その効能について医学的な根拠を示すには、溶液中の水素濃度を正確に測定する技術が必要になります。
松浦研究室では、水素に応答する炭素材料を開発し、そこに1滴の水素水を滴下することで、水素濃度が測定できる化学センサの開発に成功しました。
他にも、殺菌剤として活用される過酸化水素や次亜塩素酸、食品添加物である亜硝酸イオン、尿路結石症の原因物質でもあるシュウ酸などの化学センサの開発にも成功しています。

「AI」を取り入れた一連のシステムへ

こういった化学センサが、ニッチではありますが、諸分野で網羅的にセンサ群として配置されてくれば、それら物質情報をICT(情報通信技術)により多重伝送することで、物質情報の集約が可能になります。集約した情報を活用し、解析し、判断して、伝令して対策を講ずるために必要なのが「AI」です。膨大なデータを集約し、「AI」にて解釈し、判断して、次の指令を出すという一連のシステムが開発できれば、一つの分野はニッチでも、システムとしては社会の基盤技術となる非常に大きな市場であると考えられ、私たちの社会生活の質向上にも寄与できると考えています。

AIを活用した物質情報変換システムによる情報収集と解析制御