次世代の電力系統モデルとして、仮想発電所(バーチャルパワープラント:VPP)を構築しようとする動きがあります。
VPPとは、再生可能エネルギー(太陽光発電や風力発電等)、蓄電池、電気自動車、水素エネルギーなど、地域に散在する複数の発電・蓄電設備を束ねて、1つの発電所として機能させることで、電力系統の需給バランスの最適化を図ろうとする技術です。国内では東京電力や関西電力、東北電力などの電力会社を中心に、またシステム開発で東芝グループや京セラ、日立、NECなどの電気メーカーがVPP事業の達成に向けて、積極的に研究開発を進めています。
VPP構築において、「化学」で何ができるのか
答えは、「タフネスな蓄電池」を研究開発することで手助けできます。
VPPでは、再生可能エネルギーを十分に活用するために、これら発電拠点に漏れなく蓄電池を配置する必要があります。理由は、発電したその時にその電力を使う需要があれば良いのですが、折角発電しても使う人がいなければ、ただ捨てるだけになります。
また、一度に大量の発電があった場合、それを電力系統が受け入れることになると、電力系統内での需給バランスが崩れ、最悪大規模停電(ブラックアウト)を引き起こす可能性があります。
ケースは異なりますが、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震では、北海道の半分程度の電力需要を賄っていた火力発電所が地震により停止したことをきっかけに、北海道全域で大規模停電が発生し、また早期の復旧ができなかったという苦い経験があります。
こうした教訓を下に、電力会社が中心となり、電力系統の需給バランスを安定化させる必要性が改めて議論されています。その一環として、九州電力では2018年10月13日から14日の2日連続で、離島を除く広域での太陽光発電の出力制御に踏み切りました。
これは、土日の週末で稼働を停止する工場等の大口需要者や秋の過ごしやすい陽気も影響して一般家庭等での冷暖房需要も減ってしまって総じて電力需要が少なくなったこと、その一方で九州地方の天候は晴れで日射量が大変多く、太陽光パネルによる発電量が急激に増加しました。そのため、電力の供給量が需要を大きく上回る事態となり、電力系統の需給バランスの変動を最小限に食い止めるため、太陽光発電の出力制御に踏み切ったのです。
折角発電した電力を捨ててしまうのでは、とてももったいないことです。
この不便さを解消するために、VPPによる電力系統内での需給バランスの調整モデルが示されています。しかし、その時求められる蓄電池は、再生可能エネルギーとの連結が求められますが、自然条件の影響を必ず受けて発電出力が不安定となる再生可能エネルギーとの連結に必要とされる蓄電池には、「タフネスさ」が求められます。
つまり、定格を上回る高入力や高出力、また複数の入力や出力に同時に対応できたり、そんじょそこらでは故障しない「タフネスさ」が求められる訳です。
私が知る限り、「タフネスな蓄電池」という言葉や「タフネスな蓄電池」というコンセプトに基づく分野を研究開発の対象にしている研究者はいません。
我々が開発しているバナジウム系レドックスフロー電池は、そういった「タフネスさ」に加えて、耐久性(カレンダー寿命やサイクル寿命)にも優れ、安全性も高いといった特長も付与した蓄電池であり、いずれはリチウムイオン二次電池と対等に扱ってもらえる蓄電池の研究開発を「化学のチカラ」で進めています。
再生可能エネルギー大量導入時代の電力安定需給モデル
- 全国に設置された“タフネス蓄電池” を“AI(人工知能)”で行う、電力安定需給モデル
- “バーチャルパワープラント”(VPP:仮想発電所)の構築に向けたタフネス蓄電池の開発
- 系統での電力需給バランスに緩衝作用を付与できる、“タフネスな蓄電池”を“化学”で実現
「化学」と「AI」の共創による、日本発の次世代電力システムの構築へ
こうしたVPPの一端を担う蓄電池の開発が達成出来れば、あとは電力系統の需給バランスを膨大なビッグデータも活用して「AI」で効率的に解析・制御すれば、社会の電力システムとして素早くフィットできるのではないかと考えています。
そのためにも、「化学」と「AI」の共創により、世界に先駆けた日本発の次世代電力システムの構築を実現する必要があります。「化学」をベースに研究する我々には、蓄電池の部分だけしか研究開発ができませんが、少しでも研究成果を社会還元するために、日々学生達と研究を行っています。